1叶え、あたしの恋。 投稿者:伊藤アホ  投稿日:2017年07月27日(木)22時35分05秒




ずっとずっと、ずっと好きでした。


初めて出会ったときから、ずっと……。


学校イチの人気者だけど、クールで女子に興味なんかないあなた。


だけど、あたしのことは少しでも見てほしい。

好きになってほしい。


叶え、あたしの恋。
2投稿者:伊藤アホ  投稿日:2017年07月27日(木)22時36分57秒

☆1☆ まだまだ遠いキョリ。
3投稿者:伊藤アホ  投稿日:2017年07月27日(木)22時50分40秒
「キャー!!黒木くんが来た!」


「黒木くーん!こっち向いてー!」


「……全然見てくれないねー」

「でもそこが最高!」



女子の甲高い声を聞きながら、あたしはため息をついた。


女子が騒いでいるのは、学校イチの人気者、黒木峻一くんが廊下を通ったから。

黒木峻一くんは、ここ、逢瑠高等学校の1年の生徒で、この学校でいちばんのイケメンである。



「おいおい騒がしいぞ。静かにしなさい」


先生が注意しても、女子たちは聞こえなかったのかまだ叫び続けている。


それほど人気な黒木くんを、あたしも好きだ。
4投稿者:伊藤カホ  投稿日:2017年07月28日(金)08時30分46秒

だけど、黒木くんは女子が苦手だと黒木くんの男友達が言っていた。

黒木くんは小さい頃、ギャルや不良の女子に絡まれて、泣いてしまったことがあるからだそうだ。

それも、ほぼ毎日繰り返されていたらしい。


だからだろう。

黒木くんはたまに、女子に冷たい視線を浴びせる。

けれど、女子たちは見られるだけでも嬉しいのか、やっぱりキャーキャー騒いでいた。


だけどあたしは、キャーキャー騒げる勇気なんかなかった。

黒木くんの気に障るようなことはしたくない。


黒木くんを好きになっても、しょうがないんだ。


もうすぐ授業の時間だ。

あたしは教室に戻ることにした。

5投稿者:伊藤カホ  投稿日:2017年07月29日(土)13時47分10秒


☆☆☆


下校の時間が来たので、あたしは帰ろうとバッグに荷物を詰めこんでいた。


あたしはボランティア部に所属しているのだが、雨天のためゴミ拾いができなくなり、中止になった。

いつも一緒に帰っている友達はバレー部で、部活があるためひとりで帰ることにした。


その時だった。

ちょうど廊下の角を曲がるとき、人影に気づくのが遅くなり、ぶつかってしまった。


「ごめんなさい…!」


学ランを着ていたので、相手は男子だとわかった。

顔を見るのが気まずくて、すぐに通りすぎようとした。


「こっちこそ、ごめん」

「…!」


謝ってきたのは聞き覚えのある声で、あたしは思わず相手の顔を見てしまった。

6投稿者:伊藤カホ  投稿日:2017年07月29日(土)14時00分57秒

「あっ…!」


なんと、その相手は黒木くんだったのだ。

あたしの胸は飛びはねるように高鳴った。


緊張してあたしは固まってしまった。


「どうかしました?」


黒木くんが笑顔も見せずに尋ねてくる。

それは怒っているようにも見え、あたしは勘違いをしてしまい、


「な、なんでも…ない!」


と答え、逃げるように黒木くんの横をさっさと通りすぎていってしまった。


あとで振り返って見てみると、黒木くんは教室に戻っていた。

忘れ物でも取りにいったんだろうか。


近くにあった窓ガラスが、あたしのピンクに染まった頬を写していた。

7投稿者:伊藤カホ  投稿日:2017年07月30日(日)12時16分40秒

それに気づいたあたしは恥ずかしくなり、頬を両手で隠した。


すると、通りかかった黒木くんのファンらしき女子に睨まれ、あわてて外に出た。


外に出ても、まだ女子の視線を感じ、どんだけ嫉妬深いんだ、とあたしは呆れた。




「やっぱひとりで帰るのやめようかな」


急に心細くなったあたしは、友達にLINEで「ごめん、やっぱり一緒に帰りたいから部活終わるまで待ってるね!」と送った。

すると、すぐに「わかった!」と返事が来たので、あたしはホッと胸をなでおろした。


待っている間、たくさんの生徒が通りかかった。


女子グループ、男子グループ、カップル…。

カップルを見ると、ついついあたしと黒木くんで想像してしまい、首をブンブンと振った。

8投稿者:伊藤カホ  投稿日:2017年07月30日(日)12時30分18秒

ダメ、考えちゃいけない。

あたしなんかが黒木くんと付き合えるわけないんだから。


可愛いわけでも美人なわけでもないあたし。

脚も他の子と比べて太く、スタイルもよくない。


まだキャーキャー騒いでいる女子たちのほうが可愛いと思えた。


「あたし、恋しちゃダメなのかな…」


思うのと声に出すのとでは全く違う。

声に出すと、今まで出会ったカップルへの嫉妬心を抱き、涙があふれた。


そう、恋なんてしちゃいけないんだ。

こんなブスに好かれても迷惑なんだ。

両想いになんかなれないんだ。


こぼれ落ちるのをいくら我慢したって、あふれてくるせいでムダになる。

人に変な目で見られてもいい。あたしは泣き続けた。


9投稿者:伊藤カホ  投稿日:2017年07月31日(月)08時49分09秒



「…あ」


しばらく泣いていると、黒木くんが通りかかった。

黒木くんはあたしに見向きもせず、通りすぎていった。


だよね。

話しかけてくるとか、そんな漫画チックなことが起こるわけない。


少女漫画でよくある、学校のアイドルである男子が地味子と両想いになって付き合う話。

あんなの100%ありえないとあたしは思う。

だいたい、学校のアイドルが地味子を好きになるわけがないし、地味子で美少女なんてふざけている。


もし漫画であたしが主人公で学校のアイドルが黒木くんだったとしても、黒木くんがあたしを好きになるなんて到底無理な話だ。


現実って甘くない。


10投稿者:伊藤カホ  投稿日:2017年07月31日(月)09時01分39秒



その夜。

あたしは寝つけず、黒木くんのことを考えていた。


いつも横顔しか見れなかったが、ぶつかったときは正面で見ることができた。

思い出したら嬉しくなり、ひとりでニヤニヤしてしまった。


告白なんてしなくてもいい。

黒木くんを見られればそれでいい。


他の女子には敵わないから。


けれど、諦めたくてもついつい黒木くんとあたしをカップルにしていろいろな妄想をしてしまう。


あたしを美人に変えたり、黒木くんと手を繋いだり、遊園地の観覧車の中でキスをしたり…。


「美人に生まれたかったな」


あたしはポツリと呟いた。

11投稿者:伊藤カホ  投稿日:2017年07月31日(月)11時46分43秒

美人に生まれていれば、なんとか説得して黒木くんの女性が苦手なのを直してあげることができたかもしれない。

告白も余裕でできたかもしれない。


だけど、こんなブスなあたしじゃ断られるに決まっている。

それどころか、嫌われてしまうだろう。


美人はズルい。


あたしはため息をつき、眠りについた。

12投稿者:伊藤カホ  投稿日:2017年07月31日(月)11時56分30秒


「…さん、桑田さん。おいで」


誰かがあたしを名字で呼んでいる。

この声は…流れる海のように心地よい声は……あの人しかいない。


なんと、目の前で黒木くんがあたしに手をさしのべていた。


「黒木……くん?」


「手…繋ご」


「黒木くん…!」


黒木くんの以外な行動に、あたしはキュンとしてしまった。


「うん!」


黒木くんの手は温かくて、あたしは思わずギュッと強く握ってしまった。


「あはは、痛いよ桑田さん」


黒木くんの笑顔がこんなに近くで見れるなんて。


「あ…ご、ごめん…!」

「ん、いいよいいよ」


こんな幸せ、初めてだ。

13投稿者:伊藤カホ  投稿日:2017年07月31日(月)12時07分12秒


まるでお花畑になっているあたし。

ふいに黒木くんが顔を近づけてくる。


「じっとしてて」


顔と顔との距離がだんだん縮まっていき、自分の顔がだんだん熱くなるのがわかった。

きっとあたしは、顔が真っ赤になっていただろう。


心臓はドキドキを越えてバクバクと鳴っていた。


キスだ。

これは絶対にキスだ。


あたしはゆっくりと目を閉じた。

自分が溶けてしまう感覚だった。


あたしの顔に黒木くんの息がかかる。


唇と唇がふれあう…直前だった。

14投稿者:伊藤カホ  投稿日:2017年08月02日(水)13時33分23秒

すぐ目の前にいた黒木くんの存在を、だんだん感じなくなっていった。


なんで……黒木くん…?

せっかくキスできるところだったのに……。

まさか……これ……。


手を動かして黒木くんに触れようとするが、やはり黒木くんはいない。


その瞬間、だんだん視界に見慣れた天井が入ってくる。

動かしたつもりだったが、見ると手は地面についていた。


「……夢か」


残念だけど幸せな、不思議な気持ち。


もういちど今の夢を見たいと二度寝しようとしたが、時計を見ると7時を過ぎていた。

15投稿者:伊藤カホ  投稿日:2017年08月02日(水)13時44分52秒


そんなうまくはいかないか……。


あたしは重たい体を起こし、階段をゆっくりと降りていった。




「おはよー!」

「おっはー!」


行きのバスに乗ると、同級生たちがあいさつをしてくれる。

毎朝のことだがそれでも嬉しくて、あたしは笑顔であいさつを返した。


あたしはいつもバスで学校へ通っている。

もともとバスに酔いやすいので始めは不安だったが、思っていたより小さなバスで、中もよく酔う大きなバスとは違う匂いだったので安心した。


朝のバスはとても静かで、寝ている人がほとんどだ。

起きている人も、話す気力がわかないのか静かに座っている。


早く黒木くんに会いたい。

あたしは窓にもたれかかった。

16投稿者:伊藤カホ  投稿日:2017年08月02日(水)14時57分59秒


「……美矢ちゃん。美矢ちゃん」

「ん……」


誰かに肩を揺すられ、あたしは目を開ける。


いつのまにか寝てしまったらしい。


見れば、生徒たちはぞろぞろとバスから降りていた。


「なかなか起きないんだもん。心配したよ」


起こしてくれたのは先輩で、あたしは「ありがとうございます」とぺこぺこ頭を下げた。


「そんなにかしこまらなくていいって。ほら、みんな降りちゃうし、私たちも降りよ」


「はい!」


歩きながらあたしは窓の外に目をやった。

一緒のバスに乗っていた同級生は、徒歩通学の子と混ざっておしゃべりをしていた。


あたしにもあんな明るさがあったらなと、少し羨ましく思った。

17投稿者:伊藤カホ  投稿日:2017年08月02日(水)15時19分49秒

お金を払いステップから降りたとたん、急に「キャーッ」と誰かが黄色い声を上げた。

その周りの子も興奮していた。


もしかして……!


あたしの心臓がドクンッと高鳴る。


「黒木くーん!」

「おはよー黒木くーん」


やっぱり黒木くんだ!

あたしも嬉しくなったが、声には出さなかった。


「相変わらず人気ね、峻一は」


「え?」


先輩が黒木くんを「峻一」と呼び捨てにしたので、思わず聞き返してしまった。


「ん?…あぁ、実は峻一といとこなんだ、私」

「えっ……!そうなんですか……」

「うん。ほんと峻一は昔から女子にモテてさ。だけど峻一自身は女子が大の苦手で……」


やっぱりそうなんだ。


先輩と黒木くんがいとこと知ったことで、あたしは先輩にいろいろ聞いてみることにした。

18投稿者:伊藤カホ  投稿日:2017年08月08日(火)08時57分51秒


「あのっ……」

「ん?」

「黒木くんて、彼女いるんですか?」


黒木くんは女子が苦手だから、彼女はたぶんいない。

だけどやっぱり気になるので、念のために聞いてみた。


「えぇ?」


先輩は驚いてあたしを見た。


「あっ、すみません……。女子が苦手なのに……いるはずないですよね…」


あたしは申し訳なく思い、とっさに謝った。

だけど、当の先輩は、考え込むように斜め下に視線を向けていた。


「うん、いないにはいないんだけど……。告白されたことが何回もあって、ラブレターも数えきれないくらいもらってた」


「ですよね…。黒木くんですから…」


「でも、その中には熱狂的な子もいたみたいでね、峻一に『絶対私と付き合って!』って無理やり交際を申し込んできた子もいたらしいの。

峻一、なかなか意見を言えるような性格じゃないから断れなくて……結局付き合ったらしいよ。
すぐ別れたけど」


「熱狂的な…」

「うん、芸能人でいえば、嵐とかすごく気の強いファンが多いじゃん?」

「はい…」

「あんな感じ」

19投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年08月09日(水)16時28分08秒



「またね」


あたしと先輩は学校に着き、手を振ったあとそれぞれの教室に向かった。


あたしの教室は、黒木くんがいる教室を通らないと行けない。


通りかかったとき、あたしは思いきって黒木くんをチラ見した。


黒木くんは一番後ろの窓側の席に座っている。

誰も視界に入れたくないかのように、窓側を向いてスマホゲームをしていた。


黒木くんの後ろ姿は何回も見ているので、すぐに彼だとわかった。


彼の顔を見れなかったのが少し残念だったが。


あたしは自分の教室に入り、机を囲って話をしている男子のグループをよけてカバンを置いた。


あたしと黒木くんはもちろん同い年で、黒木くんがB組、あたしがC組だ。

だから、教室も隣同士。


けれど黒木くんは騒がしくしないので、声が聞けないのが惜しかった。

20投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年08月09日(水)16時38分29秒


「ギャハハハハハ!!」

「いやお前さ、それウーロン茶ちゃうだろ」

「紅茶じゃね?これ」

「オレ紅茶嫌いだわ。まずくね?」



「うっそ!マジ?」

「マジマジマジ!だって本人が言ってたもん」

「本人から言うとかそれヤバくね」

「ヤバイね〜、キャハハ」


男子グループや女子グループの声が次々とあたしの耳に入る。

あたしは朝から話せる友達なんていないので、静かに顔を伏せていた。


あたしは、思う。


このクラスに黒木くんがいれば、と。

黒木くんと同じ場所にいるだけで、あたしの気分はガラッと変わるはず。


「はぁ……」


どうせ周りの声で聞こえないので、あたしは大きなため息をついた。

21投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年08月12日(土)02時34分45秒


「美ー矢っ!」


誰かがあたしの名前を呼ぶ。

こんな風に話しかけてくれる友達がいればいいのに……。


そう思い、顔を上げる。


すると、見慣れた顔が目の前にあり、あたしは「ひゃっ!」と悲鳴をあげてしまった。

幸い、あたしの悲鳴より周りの声のほうが大きかったらしく、誰もあたしを見なかった。


「なんか高校に上がってちょっと過ぎてから全然元気ないけど、どした?」


彼女はクリっとした目であたしを心配そうに見てくる。


彼女は倉橋満那(くらはし まな)。

あたしの中学時代からの友達。


気さくで、人見知りなんて全くしない。

辛いことや悲しいことなどがこれまでにあったのかと考えてしまうほど元気がいい。

その元気のよさに、あたしは毎度救われていたっけ。


「うーん……ちょっと…ね…」


まさか恋してるとは言えず、あたしの返事はあいまいになってしまった。

22投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年08月12日(土)02時44分52秒


「んー?まさか恋の病とか言わないでよ?」

「えっ!!」


あたしの気持ちを察するかのように、満那はニヤニヤしながらこちらを見ている。


「そ、そんなわけ……」

「あー、こりゃ図星だな?誰?誰が好きなの?」


満那に肘でこづかれ、あたしの頬はだんだん熱くなっていく。


満那は中学のときからそう。


人の恋愛話が大好きで、片想いをしている女子たちの相談役まで努めていた。

満那のアドバイスのおかげで、見事恋人同士になれた子も少なくなかった。

だから、誰かを好きになれば、真っ先に満那に相談する女子が増えていた。


言うしかないのか……。


あたしは、ゴクンとつばを飲み込んだ。

23投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年08月12日(土)14時52分08秒

と、そのとき。


キーンコーンカーンコーン……


「席つけー」


チャイムと先生の声で、あたしの答えは遮られた。

机を囲っていた男子たちは、めんどくさそうに席に戻っていく。

女子側は他のクラスからも来ている子がいたのか、彼女たちはそそくさと教室を出ていった。


「ごめん、休み時間になったらまた聞くね」


満那はそう言い、あたしにウインクして教室を出ていった。


実は、満那は黒木くんと同じクラスで、わざわざこっちに来てくれたのだ。


でも、なんで?

満那なら友達たくさんいるし、B組にたくさん話す人いるはずなのに。


あたしを心配して来てくれたのかな。


そう思うと、少し嬉しくなった。

24投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年08月13日(日)09時35分39秒


先生の話を聞かずボーッとしているうちに、いつのまにか休み時間になっていた。


B組はこっちよりも早く終わったらしく、すぐに満那がこっちの教室に来た。


「で、誰なの?誰なの?」


満那は早速聞いてくる。

目が期待のせいかキラキラ輝いているように見える。


「……黒木くん」


恥ずかしかったので、あたしはボソッと言った。

満那が「え?」と聞き返す。


「黒木くん」


満那にしっかり聞こえるように、今度はいつもと同じくらいの声で言った。


「峻一くん?あー、峻一くんか……」


満那は曇った表情を浮かべる。

なにかやましいことでもあるのだろうか。


それに、もう馴染んだのか、満那は黒木くんを下の名前で呼んでいた。

黒木くんと話せるなんて、羨ましいと思った。


「やめといたほうがいいよ」

25投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年08月13日(日)09時55分56秒


「……え?」


今度はあたしが聞き返す。

一瞬、満那の言葉に耳を疑った。


「やめたほうがいい」


満那は真面目な顔になる。


「なんで……?」


あたしは少し怖くなった。


でも、きっと黒木くんは女子が苦手だからだろう。


満那はまだあたしがそのことを知らないと思っているんだ。


しかし、その思惑はすぐにはずれた。


「峻一くんね……悪い噂があるんだよ。うちらのクラスでしか広まってないけどね」

「……え、悪い噂?」

「そう。誰にも言っちゃダメだよ。これはB組と美矢だけの秘密だから」


満那は口元に人差し指をあてて言った。

その目付きは鋭かった。


こんな満那、初めて見た。

26投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年08月13日(日)23時43分06秒


「噂って…何?」


あたしは胸を締め付けられたような感覚に陥った。

愛する人の悪い噂が広まってるなんて、そんなの信じたくないから。


満那はクスリと笑ってあたしの耳元でささやいた。


あたしは少し違和感を覚える。

何で今笑ったの……。


「ブスが嫌いだって、他の男友達に言いふらしてるらしいよ」


その違和感は満那の一言で砕けてなくなった。


そんな……黒木くんが……?

27投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年08月14日(月)00時02分01秒


「そんなわけ……!」

「シッ!みんなに聞こえるでしょ」

「だけどそんな……!」

「ごめん、こんなこと言っちゃって。でも、これは美矢のためだから。美矢が黒木くんに告白するつもりだったらなおさらね」


それはあたしがブスだからっていうの……?


たしかにあたしはブスだ。

でもその「ブス」という言葉は自分で思っているからこそ受け止められるのであって、友達に言われたら傷つくのだ。


直接言われたわけじゃないけれど、満那の言葉の意味はブスと言われたのと同じだ。

あたしはブスだから告白するなという意味なんだ。


別に告白する予定などなかったのに、とても悲しくなった。


あたしの恋は実らない。


振り向いてもらえない。


満那はひどい。

28投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年08月14日(月)00時20分28秒


「……それは、あたしがブスだから?」

「え?」

「あたしがブスだから……告白しちゃいけないっていうのっ?」


気づけば、怒りをぶつけていた。


言ってすぐに後悔した。


ヤバい。バカだあたし。


あたしは満那が怖くなった。

だって、満那は拳を握りしめていたから。

そして、唇を噛み締めていたから。


まるで、思っていたことを当てられたかのように。

29投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年08月14日(月)00時33分18秒


数秒がたち、気まずい空気が流れる中で、満那はようやく口を開く。


「……違うよ。美矢がブスとかそんなことは思ってない。ただ……そんな人を好きになっちゃいけないな…って、思って……」


……は?

黒木くんをそんな人って……ひどい!


「ひどい……!あたしには黒木くんしかいないの!初恋なの!そんな簡単に諦められるわけないじゃん……」

「ごめん、マジでごめん…!だけど、美矢ならもっといい人を選べると思って…」

「黒木くんよりいい人なんていないよ!!」

「でもさ美矢……」


「もういい。出てって」

30投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年08月14日(月)00時45分25秒

あたしは突き放すように言った。


だけど、今はもう後悔なんてしていない。

満那はひどいことを言ったんだから。


あたしをブス扱いして、挙げ句の果てには黒木くんまでバカにして……!


「ごめん美矢。でも信じて。自分の目でちゃんと確かめればわかるよ」

「何よそれ…」

「私は出てくよ。でも今日の放課後、校舎の裏側に来て。峻一くん、男友達と何か会う約束してたから」


意味がわからない……。


「じゃあね」


意味がわからない……!


そんなの……そんなのってない!


あたしのため?そんなわけない。絶対嘘だ。

あたしをバカにしてるんだ……!

友達だと思ってたのに……。

31投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年08月14日(月)01時01分14秒



満那のせいで、黒木くんの悪い噂が本当なにか気になってしまい、今日一日の授業はあまり集中できなかった。

後の休み時間でバッタリ満那に会ってしまったが、気にせず無視した。


部活は休んだ。


そして、その時が来た。


満那がすぐさまあたしのもとへ来る。

無視されたことなんか、気にもしていない様子だ。


「じゃ、行こ、美矢。本当だってわかるから……」


満那はやっぱり笑っていた。


絶対おかしい。


あたしは横目で満那を睨んだ。

32投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年08月14日(月)01時01分54秒
本当なにか ×
本当なのか ○
33投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年08月14日(月)01時09分19秒
訂正版



満那のせいで、黒木くんの悪い噂のことで頭がいっぱいになってしまい、今日一日の授業は全く集中できなかった。

3時限目の休み時間でバッタリ満那と遭遇した。

満那はこちらに向かって手を振ってきたが、構わず無視した。


やる気などなかったので、部活は休んだ。


そして、その時が来た。


満那がすぐさまあたしのもとへ駆け寄る。

無視されたことなんか気にもしていない様子だ。


「じゃ、行こ、この目で確かめに行こ……」


満那はやっぱり笑っていた。


絶対おかしい。


あたしは横目で満那を睨んだ。

34投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年08月14日(月)16時18分51秒


満那はあたしの腕を引っ張り、歩こうとした。

あたしは抵抗した。


「ちょ、離してよ…っ」


腕を振りはらうと、満那はニコリと笑う。

なぜか、すごく寒気がした。


嫌な予感。


「何もたもたしてんの。早くしないと、峻一くんの本性見れないよ?」


微笑んだまま、再び満那はあたしの腕をつかんで引っ張る。


結局言い返すこともできず、あたしは黙って満那についていく。


でも、帰りは黒木くんに会えない日が多いし、会えるのならいいかも。


あたしはひそかに楽しみになっていた。


満那と一緒にいたくはないけど。

35投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年08月14日(月)16時31分26秒

二人で走っていると、下校している生徒たちがチラチラと怪訝そうにこちらを見てきたが、気にしている暇などなかった。


今は黒木くんを見たい気持ちでいっぱいだから。

だから、他の人なんてどうでもいい。


あたしたちはようやく校舎の裏側までたどり着いた。


見ると、すでに黒木くんたちがそこにいた。


あたしの心臓は、まるで喜んでいるかのように鼓動を早くする。


「私の後ろに隠れてて」


満那に命令され、あたしはすぐさま従った。


耳を澄ますと、かすかに黒木くんの声がする。


あぁ……。なんていい声なんだろう……。


あたしはうっとりしながら、黒木くんをずっと見つめていた。


36投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年08月17日(木)20時08分39秒


「そういや黒木、お前ブスが嫌いって言いふらしてるってマジ?」

「……んー、まあ」


えっ……。

まさか本当だったなんて知らなくて、あたしはショックで固まった。


「プッ!マジか!」

「自慢じゃないけど女子が俺にたくさんついてきてさー、それがなんていうか…ブサイクばっかだから。
もともと女子は苦手だったけど、もっと嫌いになった」

「へー」


嘘だ…嘘だ……!


「どうせだったら、可愛い子がよかったなー。広瀬すずとか、橋本環奈並みの」

「お前って意外と面食いなのな」

「まあな。俺についてくる奴ら、ブスばっかなのわかるだろ?
ブスなくせに告白とかさー、マジ迷惑。誰がお前らと付き合うかっつーの。ブスほど嫌いなものはねぇよ」

「ぶはっ!ははははははは!!おいおい、騙されてる女子ちょーかわいそっ!」


そんな……。

37投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年08月17日(木)20時28分02秒

そんなわけ……。だって黒木くんは……。

あたしの知ってる黒木くんはあんな人じゃない。

ぶつかったとき、ちゃんと謝ってくれた。

ちゃんとあたしに笑顔を……。


向けてない。


ぶつかったとき、笑顔を全く見せなかった。怒っているように見えた。

きっとあれは怒っていたんだ。


黒木くんで騒いでいる女子よりもブスなあたし。

それを見て、きっと黒木くんは引いたはず。

こんなブスだから。

こんな……。


「あ、俺バスもうすぐだから帰らねえと。じゃあな」

「お、じゃーなー黒木!またブスの話聞かせろよー」

「機会があったらな」

38投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年08月17日(木)20時47分28秒


黒木くんは男友達に手を振り、帰っていった。

いつ見てもモデル並みのスタイルで、スラリとしていて、顔も完璧だ。


なのに、あんな性格が悪いなんて信じられない。信じたくない。

だけど、これが現実。


あたしの理想がでかすぎただけ。顔も性格もいい男なんているわけない。そんなのいない。


何を夢見ていたんだろう。バカだ。バカすぎる。


「見たでしょ?これが峻一くんの本性。だから、諦めたほうがいいよ」


……満那、何言ってんの。あんたは何がしたいの。


そんなものをあたしに見せて、あたしがどんな気持ちになるかわからないの?

簡単に諦めろなんて言わないでよ。

気を使ってくれてるのはわかるけど、そんなのない。


一度燃えた恋の炎は、簡単には燃え尽きないんだから。

39投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年08月24日(木)00時40分12秒

あたしは拳をぎゅっと強く握った。


_____あきらめられない。そんな簡単に好きって気持ちを忘れるなんて無理だ。


あたしにはもう、黒木くんしかいないから。


黒木くん以上に好きになれる男の人なんていない。


黒木くんの本性を知ってしまってもそう思う。

それはきっと心のどこかで黒木くんをまだ美化している自分がいたから。


もとはといえば、昔黒木くんを巻き込んだギャルたちが悪い。

あいつらが黒木くんの性格を歪めてしまったんだ。

だから黒木くんも女子を嫌って当然だろう。


黒木くんを好きな気持ちはきっとこれからも変わらない。

40投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年08月25日(金)10時04分14秒


「帰ろっか」


満那はあたしの肩をポンと叩く。

どうしてそんなに軽々しいのかと腹が立って仕方なかったが、満那の機嫌を損ねたくないので我慢した。


「……うん」


早足で歩く満那に、あたしはしぶしぶついていく。


満那とは今すぐ絶交したい気持ちだった。

本当の友達だったら、いくらあたしの好きな人が性格悪いとしても、そんな無理やり諦めさせようとはしない。

本気で好きになった人を嫌いになれない気持ちは、惚れやすい満那ならわかるはず。

だけど、もしかしたら満那は本気になったことがないのかもしれない。


きっとそうだ。満那は人を好きになっても、すぐ飽きていた。

その繰り返しだった。

41投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年08月25日(金)10時14分51秒

試しに満那に質問することにした。


「……ねぇ、満那」

「ん?」

「満那ってさ、本気で人を好きになったことって……ない?」

「えっ?急にどうしたの?」

「いいから」


あたしは黒木くんのことは本気だ。だったら満那はどうなんだろう。

今片想い中なのかは知らないけど。


「うん、あるよ」

「……え」

「今、好きな人がいるんだ。それは本気」


満那に好きな人はいるだろうと思っていたけれど、まさかそれが本気だとは思わなかった。


「誰が好きなの?」

42投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年08月25日(金)10時28分34秒

聞いた瞬間、満那は「ハハッ!」と大げさに笑った。

気がおかしくなったのかと疑うほど、満那は笑い続けた。


「……大丈夫?」


「アハハ!うん!もちろん、ごめんごめん、ホントにごめんマジでごめーん!だってだって、私が、私が勝つと思えば、ね!ハハハ!」


意味がわからない。


なんだか満那が怖かった。

自分の恋愛話になると照れるのだろうか。照れ隠しのためなのか。


いや、違う。じゃあなんなのか。


「はー、笑ったわー」


なんだか聞き返すのも気まずくて、あたしはそれ以上話すことができなかった。

満那の笑いが治まってから、あたしたちは無言だった。


ようやく下校のバスが来て、あたしは席に座る。


満那はあたしの隣ではなく、別の友達の隣に座った。


なぜかズキリと胸が傷んだ。

43投稿者:1  投稿日:2017年08月28日(月)10時52分42秒
\ハッ 紙がないっ/
  Σ ∧_∧
/⌒ヽ(;・Д・)
|  ( つ つ__
ヽ  ( ⌒)) (三(@
に二二二UJ
 )  r'
└ーー-┘

カミに見放されし者は
____
Ю)__) ∧_∧
|´ー`| (・ω・`)
 ~~~~~ ⊂   ヽ /
     ⊂__ノ/
     \   ノ
      )  (
       ̄ ̄
自らの手でウンをつかめ

    人
  (__)
\(__)/ ウンコー!
( ・∀・ )
44投稿者:くさそう  投稿日:2017年08月30日(水)22時31分52秒
くさそう
45投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年09月16日(土)20時59分42秒
誰がウンコじゃいww
46投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年09月16日(土)21時15分15秒


満那はあたしを嫌ってる。

あたしも満那が嫌いだ。


もしかしたら満那はそれより前からあたしを嫌っていたかもしれない。


だけど、なぜ?

あたしは何もしていないのに。


あたしがブスでキモいから?

いや、いくら満那でもそんな理由であたしを嫌うわけがない。


だけど真実はわからない。


もしかしたら、本当にそれが理由で嫌っている可能性もなくはない。


実は満那は明るい表情の仮面を被っていて、素顔は怖い悪魔なのかもしれない。


関わっちゃいけないとあたしは思った。


そういう奴は人を簡単に悪の世界に巻き込むため、危険だということくらいわかる。


あたしはギュッとスクバを抱きしめた。

47投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年09月16日(土)23時27分32秒

少したつと、LINEのメッセージ音が鳴った。

誰からだろうと画面を開くと、送り主は満那だとわかり、あたしの心臓はドクリと不愉快な音を立てた。


何の用かと思い画面を開くと、スタンプが送られていた。

「うさぎ100%」の、煽り効果抜群なスタンプだった。

うさぎのキャラがふざけた顔で「うえーい」という文字と共にこちらを指差していた。


どう視点を変えても、これはあたしを嘲笑っているようにしか見えなかった。


満那が座っている席に目をやると、やはり満那はこちらを見てニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべていた。

満那の隣に座っている女子も、満那とほぼ同じ表情をしている。

その子とあまり話したことはないが、当たり前のように傷ついた。


再び満那からメッセージが送られてきた。


そのメッセージを見て、あたしは凍りついた。

48投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年09月23日(土)02時50分22秒


【ねーねー!!今隣に座ってる子から聞いたんだけど、峻一くん美人な彼女ができたらしい!!!】


あたしは始め、嘘だと思った。

しかし、次にスクショした画像が送られてきたのだ。あたしはそれを見て確信した。


それは、黒木くんのトプ画とホーム画が表示されている画面からだった。


トプ画は人気バンドグループの集合写真。それにはなんの問題もない。

注目すべきなのはホーム画だ。あたしはそれに釘付けになった。


なんと黒木くんと知らない女子が、笑顔で写っていた。

マイクを持っているので、場所はカラオケだとすぐにわかる。

しかも女子のほうは、満那から聞いた通りかなりの美人だった。

艶のある黒髪ボブ、タレ気味でぱっちりとした目、スッと通った鼻筋、綺麗に揃っている歯……。


ふたりは肩を抱き合っているので、すぐに恋人関係だとわかった。


ショックだった。

49投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年09月24日(日)09時29分10秒


「嘘だ……」


気づけばあたしは声を漏らしていた。


だけど、あたしみたいなブスより画面に写っている美人の方が黒木くんとお似合いなのは百も承知だから、すぐに諦めがついた。


あたしがふう、とため息をつくのと同時に、「ププッ…」と誰かが吹き出した。


バッと振り返ると、やはり吹き出したのは満那だった。


人の不幸を笑うなんて最低だと、あたしはムカついた。

だから、思いきり満那を睨んでやった。


満那は一瞬だけ表情が固まったが、すぐにまたニヤニヤと笑みを浮かべた。


_____なんで?

_____どうして?


あたし、満那に恨まれるようなこと、した___?

50投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年09月24日(日)09時52分21秒

しばらく考え事をしていると、あたしは登校で一緒に話した先輩の言葉を思い出し、「あっ」と声をあげた。


___そうだ。

先輩は黒木くんには彼女がいないと言っていた。

もし仮に今日付き合い始めたとしても、カラオケに行ったという矛盾点がある。

今日中に付き合ったなら、付き合い始めたのは学校でだからカラオケなんて行けるわけがない。


けれど、それは確信したわけではない。

実は少し前から付き合い始めていて、先輩が知らないだけだったのかもしれない。

だから、まだ真相はわからない。

51投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年09月24日(日)22時17分38秒

ふとバスルームミラーに目をやると、すぐ後ろの席の子たちが不思議そうにあたしを見ていた。

満那たちもあたしの声に気づいていたようだが、こちらは睨みを利かせていた。


本当に、どうして満那はあたしをそんなに嫌ってしまったの。


いくら思い出そうと頑張っても、満那に嫌な思いをさせるようなことをした覚えは全くない。

だから、思い出そうにも思い出せない。


___LINEで聞こう。


直接聞くのはなんだか怖い。

でもLINEなら相手の表情は見えないしわからないのでいくらでも言える。


今から聞くのはためらわれたので、家に着いたら聞くことにした。

52投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年09月25日(月)06時24分31秒

満那たちはあたしを見るのをやめ、おしゃべりに花を咲かせていた。


ミラー越しにふたりをチラチラと見ていたが、ふたりはあたしの視線に気づいていないようだった。


今度はじっと見てみた。


すると、ふたり以外の人があたしに気づいいた。

その人はすぐにあたしのことを知らせようと隣の人の肩を叩いたが、眠っていたので諦めていた。


ヤバい。


あたしはとっさに視線を外し、窓の景色を見ることにした。
53投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年09月25日(月)06時31分57秒

あたしは平静を装ったが、内心とても焦っていた。

じわりと汗が出てきそうな熱さが身体中に広がる。


あたしに気づいた人物はたしか満那と同じクラスで、満那とたまに一緒に行動する仲でもある。

ということは、すぐに今のことをバラされるかもしれない。

そんなことが満那にバレたら、あたしはますます満那に嫌われてしまうだろう。


あんなふたりなんか、見なきゃよかった。


あたしは時間を戻したいと悔やむほど後悔した。
54投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年09月29日(金)00時29分25秒

なんだか、LINEを送るのが怖くなった。


口の悪い返信が来たらどうしよう。

中傷されたらどうしよう。

次の日無視されたらどうしよう。


いろんな不満があたしの脳内を旋回する。


だけど、それでも……。


あたしは満那の本心が知りたかった。
55投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年09月29日(金)00時37分38秒

☆☆☆

満那がバスを降りる。


あたしと満那は家が遠く、バスは先に満那の家の近くで停まる。

だから、あたしはその次にいつも降りている。


バスが動きだし、満那の姿はもう見えなかった。


今メッセージを送ろうかと一瞬迷ったが、学校帰りのすぐでおそらく満那の気も休んでいないので、迷惑がかかると思ってやめた。

返信をするのはもうちょっと後にしよう。


あたしはそう決め、ようやくバスから降りられた。
56投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年09月29日(金)00時48分46秒

家に帰るとすぐにあたしはソファーにドカッと座る。

あたしのすぐ側で妹の真矢が地べたに座ってテレビを見ていた。


その内容は少し残酷で、あたしはリモコンを真矢から奪い取るようにしてチャンネルを変えた。


「ちょっと、勝手に変えないでよ」


真矢があたしを睨みつける。


「だって気分よくないじゃん、あんなニュース」


あたしは動じず反論した。


「そんな平和ボケしてちゃダメなんだよ。事件や事故なんていつどこで自分の身の回りに起きてもおかしくないんだから、いつも警戒してなきゃ」


真矢は口の片端をつり上げ、メガネをクイッと動かした。
57投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年09月29日(金)01時03分46秒

真矢にとってはカッコをつけたつもりだろうが、二重あごのせいで台無しになっている。


「はいはい、社会しか取り柄ないくせに、調子乗っちゃって」

「お姉ちゃんは何にも取り柄ないじゃん!あ、肌が白いことくらい?」

「うるさい黙れ、痩せろブタまんじゅうが」

「やだ」


そんなこんなでくだらないケンカが15分ほど続いた。

ようやくケンカ地獄から解放されたあたしは宿題をすることにした。


日本史、数学、英語などなど、2時間以上はかかりそうな宿題。

あたしはため息をつきながら、日本史のプリントをファイルから出したのだった。
58投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年09月29日(金)22時29分29秒

あたしは数学や英語と比べて、日本史の出来はまだマシなほうだ。

だから、早く終わりそうな課題から進めることにした。

しかし、いくら時間をかけてもなかなか集中ができなかった。

シャーペンを頑張って紙の上に立たせても、問題の答えなんて浮かばない。


「…はぁ」


結局集中できたのは、たったの5分だけだった。


あたしは机に顎をのせ、真矢を見る。

真矢は何か数式の問題集を解いているようだ。

真矢はあたしと違って頭はいい。ただ、運動神経はよくない。
59投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年09月30日(土)08時40分15秒

だけどあたしは勉強も運動もできない。

テスト期間になっても勉強なんて計30分くらいしかやらない。

だからほぼ点数は60点以下。


こんなダメなやつに好かれても、黒木くんは喜ばないよね。

さらにあたしはブスだから。


自分の負け組さ加減を認めると、悲しくなってくるものだ。


勉強に集中している真矢を見ていると、なんだか腹立たしくなってきて、あたしはジトッと真矢を睨んだ。


「……ねえ、真矢は好きな人いないの?」
60投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年10月03日(火)23時12分09秒


「はっ…!?なに、いきなり…」


真矢の顔は少しだけ赤くなっていた。

それに気づいたあたしは図星だとわかり、ニヤリと笑った。


「あ、やっぱいるんだ。誰?どんな子?」

「いないし、そんなん」

「いるでしょ?いなかったらそうあんたみたいに顔赤くならないよ」


会話の途中で、あたしは、「あ」と気がついた。

これは、満那のしていることと同じだ。


あたしは今、妹の好きな人が聞けることにわくわくしている。

こんな気持ちで、満那はあたしに強引に質問していたのだろうか。

だけど、妹に聞くのと友達に聞くのとでは、感覚も違うだろう。


あたしは気にせず真矢の答えをただ待った。
61投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年10月03日(火)23時22分13秒


「お姉ちゃんには教えなーい」


真矢は頬をプッと膨らまし、再び机に視線を向けた。


「あっ、ケチー」


勉強モードに突入してしまったのか、真矢はあたしに興味をなくしたようで、ひたすら鉛筆を動かしている。

当のあたしは頬杖をつき、テレビを見始めた。

けれど、気候や事故のニュースばかりでなかなかいい番組はやっておらず、あたしは諦めて近くにある座布団にダイブした。


「はぁ…」


今日で何回目のため息だろうか。

あたしはおかしくなり、一人で笑った。


真矢に「お姉ちゃん、キモッ」と釘を打たれたが、気にせず笑い続けた。
62投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年10月03日(火)23時30分06秒

ようやく笑いが治まり、時計に目をやると、5時半を指しているのがわかった。


暇なので一瞬だけ満那にLINEを送ることを考えたが、まだまだ心の準備は整っていないのでやめた。

話なんていくらでも聞ける。


夜中に聞くのがちょうどいい。


あたしはそう決め、安心して目を閉じた_____
63投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年10月04日(水)00時01分45秒

☆2☆あんたのトナリにはいさせない。
64投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年10月04日(水)00時11分53秒

____見慣れた天井。気持ちの良い光。

ここは……天国?


だんだん意識がはっきりしてくると共に、あたしはすぐに違う、と悟った。


ここは、家のリビングだ。

でも……今何時?


意識ははっきりしたものの、あたしは外の明るさにまだ納得できていなかった。


___まさか。


あわてて時計を見ると、時刻は5時を指していた。

こんなに明るいということは、今は朝なのだろうか。

しかも、スズメの鳴き声まで聞こえる。


__嘘だ。


昨日の夜にやるべきことが全然できていないので、あたしは戸惑った。
65投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年10月07日(土)14時44分25秒

宿題、勉強、お風呂、それに……

満那へのLINE。


「うそ……どうしよう……」


まずは宿題からしないといけない。お風呂はもうどうでもいい。

1日入らないくらい、別に対したことはない。


満那へのLINEはまた今日の夜にすればいい。


このときのあたしはとにかく、宿題のことしか頭に入れられなかった。

☆☆☆

ようやく宿題を終えたと同時に、真矢が目をこすりながらリビングに入ってきた。

メガネをかけていないと、もともと細い目がもっと細く見える。


「おはよ…」


真矢があくびをしたので、あたしもそれにつられてあくびをした。
66投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年10月07日(土)15時01分22秒

朝のテレビは正直つまらないものばかり。

インタビューなんて、どうせやらせばっかだし。

この前もジッピーという名の犬が死んだし。

しかも、その犬は番組の途中で吠えないように声帯を手術して声を出せないようにさせられたらしい。

もうそんなの虐待と呼ぶほかない。狂ってる。


__あぁ、学校行きたくない。

満那に何をされるかわからない。

罵声でも浴びせられるのかな。さすがに暴力はしないと思うけど。


あたしは重たい気持ちで家を出た。後から明るい表情をした真矢が。

そんな真矢が羨ましかった。
67投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年10月09日(月)00時21分28秒

あたしは真矢に尋ねることにした。


「……ねえ」

「ん?」

「真矢ってさ、学校楽しいと思う?」

「…え、昨日からどうしちゃったのお姉ちゃん。」


真矢はまるで事件の犯人探しをする探偵のような目付きであたしを見てくる。

賢い真矢なら、あたしに学校でトラブルがあることを見抜いてしまうだろう。


__嫌だ。真矢には知られたくない。

あたしが失恋して、今は友達と絶交しそうなくらい仲が微妙だということを。


「……別に。気になっただけ」


あたしはそっけなくそう答えた。
68投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年10月09日(月)00時33分15秒


「…ふーん?普通に楽しいけど」

「……そっか」


それ以降、真矢と別れるまで会話はなかった。

真矢は何かを悟ったのか、時折あたしを心配するような顔で見てきた。


あたしは今すぐにでも悩みを真矢に相談したいという思いにかられた。

だが、妹に相談する姉なんてなんだか情けないしカッコ悪い気がするのでやめた。


ようやくバス停につき、ほっと息を吐く。

本当は今すぐ家に帰りたかった。

それは、バスに乗った瞬間みんなにどんな目で見られるかと想像すると怖くなってしまったからだ。

満那と仲がいい子はたくさんいる。

そのたくさんの子が満那の見方をすると思うと怖くて仕方がない。


バスがこっちへ迫ってくる音があたしの耳に届いた。
69投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年10月09日(月)00時45分09秒

_嫌だ……帰りたい…。

満那に会いたくない。怖い……。


心臓がドクドクと静かに鼓動を早めた。

運転手と目が合い、とっさに反らす。


バスは完全に目の前に来た。窓越しからのみんなのあたしを見る目が怖い。

やっぱり、満那はみんなにあたしの噂を流したんだ。

満那の言ったことを信じるみんなもみんなだ。どうして嘘だって疑わないの?

まあ、どんな噂を流したのかはまだ知らないけれど。


バスに乗った瞬間、すぐに気づいた。

みんなの雰囲気がいつもと違う。

あたしへの明るいあいさつも、今日はない。

結局あたしは嫌われてしまった。

あたしはここにいるべき人間じゃない。だって人を不快にさせるから。


涙が溢れた。こぼれ落ちないよう、少し上を向く。
70投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年10月10日(火)15時26分35秒


「……プッ。何してんのあいつ」

「知らなーい」

「ウケる。異常者みたい」


後ろからも隣からも、あたしの悪口が次々と聞こえてくる。

ショックだった。

満那が噂を流したとはいえ、信じきるのはほんの一部だけだと油断していた。

ところがみんな信じきっているようだ。

__冗談じゃない。


あたしは必死に泣くのを我慢しながら、ただ学校に着くのを待った。

本当は行きたくなかったんだけど。
71投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年10月11日(水)14時04分16秒

でも、それでも……黒木くんの存在を思い返せば自然に心が安らぐのだ。

ブスが嫌いとか言われてもいい。

両想いになれるわけなんてないって、最初から諦めてた。

黒木くんを見れるだけで、あたしは幸せなんだから。


その瞬間、あたしはハッとした。


__もし、満那が黒木くんに噂を言ったら?


黒木くんと満那は結構話しているっぽいし、あたしのこともきっと話題にするに違いない。

最悪の場合、他の誰かが噂を広め、すでに黒木くんの耳に届いているのかもしれない。


__そんな……嫌だ……!


黒木くんには嫌われたくない。そんな気持ちでいっぱいになった。
72投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年10月11日(水)14時25分20秒

ようやく校舎まで着くと、みんな次々とアリが巣から出るかのように降りていった。

あたしは前の方の席に座っていたのだが、もたついていたせいであっという間に目の前で行列を作られ、降りるタイミングを見逃してしまった。

行列の間に入ろうとしても、みんな降りることで頭がいっぱいなのか、なかなか間を開けてくれなかった。


この前あたしを起こしてくれた先輩だけ、チラチラとあたしを心配そうな目で見てくれた。

この先輩はあたしの噂を信じてないのだろうか。

信じていない人もいることがわかり、あたしの心は少しだけ穏やかな波に包まれていく。


「……大丈夫?美矢ちゃん。いろいろ言われちゃってるけど……」


バスから降りて少し歩くと、先輩が声をかけてきてくれた。
73投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年12月09日(土)02時04分41秒


「あ……大丈夫.…です…」


先輩に心配をかけたくないからと笑顔を作ったが、ひきつってしまっていることが自分でもわかった。


「ほんと…?ならいいけど、耐えきれないなら私に言ってね?」

「はい……」


先輩の優しさに涙が出そうになる。

みんなはあんな噂を信じても、先輩は噂に影響されていない。

いつもと同じように接してくれている。


「ほんとに……ありがとうございます……」


怖かった。

教室に行くのが怖かった。
74投稿者:阿藤カホ  投稿日:2017年12月09日(土)02時10分32秒

あたしがブルブルと震えていることに気がついた先輩は、背中をさすってくれた。


「…怖い?」

「……はい……」


今すぐ先輩の胸に飛び込んで泣き叫びたい気持ちだった。

だが、そんな姿を満那と繋がっている人間が見られたら後が怖い。

きっと、「先輩に満那のことをチクったクズ」と称されいじめられるだろう。

それだけは避けたいと思った。


「…教室が嫌なら、保健室行く?きっと保健の先生がいろいろ相談に乗ってくれるから」


あたしの背中をさすったまま先輩は言った。
75投稿者:伊藤カホ  投稿日:2018年02月08日(木)22時02分39秒
見られたら ×
見たら ○
76投稿者:伊藤カホ  投稿日:2018年02月08日(木)22時10分49秒

そうだ。保健室だ。

それならまだ精神を保てるかもしれない。


「そうします……」

「そのほうがいいよ。なんか顔青いし」

「はい……」


こうしてあたしは先輩と保健室へ行った。


保健室の前へ立つと、先輩が優しく扉をノックする。


「失礼します」


「はいはい、何かな?」


出てきたのは、白髪混じりのおかっぱにメガネをかけた40代くらいの先生だった。

確か名前は……。


「高野先生」


先輩が先生に呼びかける。

そうだ。高野貴子(たかこ)先生だ。
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